北斎には珍しく、誇張や演出をほどこさない自然な景観を描いている。干潮時に江の島は片瀬海岸と陸続きとなるが、ちょうど砂洲の参道が現れ始めたのか、参詣者は皆これからお参りに行くところである。土産物屋や旅籠が立ち並ぶ様子も写実的である。画面の下辺を霞で縁取ったのは、聖域を表現するための瑞雲としてであろうか。波打ち際のきらめきや波の泡の描写が秀逸である。
※江の島(神奈川県藤沢市)
…相模湾の海上にある江の島は、砂嘴(さし)で対岸の片瀬村とつながる陸繋島であり、徒歩で参詣が可能であった。図中に描かれた三重塔は、江島神社上之宮の塔であり、元禄7年(1694)に創建された。
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