ほのぼのと明るくなってきた空を背に、富士はまだ闇をまとっている。川面から立つ靄(もや)に橋や対岸の木々がかすむ。石和の宿には暗いうちから出立する人馬の様子が細かく描写されている。陽が昇って色を取り戻す前の風景が、沈んだ色調と墨の輪郭線によって情緒豊かに演出されている。画面右下には土坡(どは)が見え、かなりの高台から見下ろしているような実体感がある。
※石和宿(山梨県笛吹市)
…甲州道中の石和宿から富士を望む。位置関係から石和宿北方の大蔵経寺山付近からの眺望と考えられる。石和宿の町並みの背後を流れるのは鵜飼川(現笛吹川)で、宿内にある遠妙寺(図中にはないが右端の続きに所在)の門前で甲州道中と分岐する鎌倉往還の板橋が見える。
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