湖のように静かな海の沖合から、帆柱越しに富士と大山を眺めている。ふたつの山は、信仰の山らしい壮麗なたたずまいを見せている。北斎の「神奈川沖浪裏」の大波の勢いとは対照的な表現である。北斎と同様、広重もまた、近接拡大したものの向こうに風景を遠望する構図を多用する。
※神奈川沖(神奈川県横浜市神奈川区)
…神奈川は東海道の宿場であるとともに、中世以来、江戸湾(東京湾)の湊として賑わった。本図は、現在の横浜港付近を手前に富士を望む。左側の海岸に沿った森は州乾(しゅうかん)島にあった横浜村の鎮守弁天社の境内。中央には戸部村の裏方である野毛浦の家並みと大岡川の河口が描かれている。右側には丹沢山地の大山が見える。
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