崖が波に削り取られてできた奇岩の洞穴からのぞき見る富士。抑揚のある筆戦による存在感のある巌と、輪郭線を持たず霞んでおぼろげな富士のコントラスト、右手に広がる海と対岸の遠景が、実景を写した景観かと思わせる。北斎の『富嶽百景』の「海濱の不二」から着想を借りながら、広重らしい自然な風景画となっている。
※逢ヶ浜(静岡県南伊豆町)
…天城山系の山岳地帯が中央にそびえる伊豆半島では、半島の沿岸部を結ぶ海上交通が盛んであった。本図がどこの海岸かは明記されていないが、図中に描かれた奇岩から、えび岩がある伊豆半島の南端に近い逢ヶ浜の風景と考えられる。
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