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歌川広重 冨士三十六景
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32:甲斐犬目峠(かいいぬめとうげ)
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桂川の渓谷を見通すと、たちこめる紫雲の上に富士が聳(そび)え立つ。絶壁の上に続く坂道を登った高台から、旅人たちは秋の渓谷を楽しんでいる。天保12年(1841)に甲州を旅した広重は、『甲州日記』と称される旅日記の中で犬目峠についても記し、スケッチも残している。しかしながら本図の景観は実際とは異なっている。犬目峠あたりは河岸段丘になっており、桂川をかなり遠くに眺め、富士もこの方向に見ることはできない。「不二三十六景 甲斐犬目峠」が実景に近い構図で描かれているのに対し、縦長の構図で奥行きや高さを効果的に表現するため、モチーフを再構成したのであろう。 |
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