大樽の輪の中に小さな三角形の富士を見る。縦横の線とぼかしで田園風景が彼方まで続く様子が表現されている。樽職人は富士に背を向け一心不乱に板を削っている。北斎の大胆な画面構成を代表する一枚。本図や「遠江山中」「隠田の水車」など富士と働く人々の組み合わせの作品は、富士がいつも見守ってくれている身近な存在として感じられる。
富士見原、伏見町(愛知県名古屋市中区)
…名古屋市郊外の富士見原は、遊郭や武家の別宅が存在する名勝地として知られていた。一方、名古屋城下町の伏見町は、南北道路伏見町筋の北端、東西道路の京町筋と杉の町筋との間に位置する。清洲から名古屋に城地が移転した際、山城国伏見(京都市)の伏見屋六兵衛が居住したため、地名となったと伝わる。伏見町には茶碗屋、畳屋があったが、南東には清洲から移転した桶屋町があった。本図は富士見原の風景とされるが、伏見町の可能性もある。
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